技術士(電気) S32電気 麻生 和男
1.はじめに
2011 年3 月の福島第一原子力発電所事故後、原子力発電に対して次の二つの意見がある。
(1)全原発の運転停止を:大きい危険性(大事故発生で死の灰放出)と放射性廃棄物処分不能(深地層処分に住民が反対)
(2)原発の再稼働を:安価な電力の安定供給が急務、核燃料サイクル継続を含む原子力利用技術向上で国際貢献を
現在、原発の再稼働を求める電力会社、産業界、原発設置地方自治体の声を受けて再稼働に向けての動きが活発化してきた。原発運転、廃炉いずれのケースにおいても放射性廃棄物の処分が大きい課題となる。
原発を運転すると燃料のウランが核分裂を起こして核分裂生成物ができる。これが燃料の中に溜まると原子炉の運転を阻害するので、多く溜まった燃料を原子炉から取り出して新しい燃料と交換する。この取り出した燃料(使用済み燃料)は原発の中で最も強い放射能をもっている。この高レベル放射性廃棄物はいろいろな物質が混ざったもので1万年を越えて放射線を出し続けるものもあり、その処分が大きい問題となっている。
2.現在考えられている使用済み燃料の取扱い方法
高レベル放射性廃棄物の取り扱いには次の二つの方法があるが、下記(2)の再処理を国の方針としている。
(1)使用済み燃料をそのまま廃棄物として捨てる。この場合使用済み燃料全体が高レベル放射性廃棄物となる。
(2)使用済み燃料を再処理して燃料の中からウランとプルトニウムを取り出して再利用する。この場合の廃棄物量は使用済み燃料の5%である。我が国では使用済み燃料の再処理に伴って発生する高レベル廃棄物は全量をガラス固化し、30 年間から50 年間の貯蔵の後、数百メートルより深い地層に処分することを基本としている。
3.放射性廃棄物の処分、その未来技術
3.1「再処理→群分離→核変換」で最終廃棄物量の縮減と有用資源の再利用
高レベル廃棄物中の元素や放射性核種を半減期、元素の化学的性質、利用目的に応じて分離し(群分離)、有用な元素(白金族元素群)の利用を図る(高レベル廃棄物の資源化)とともに放射能が高く発熱性をもつストロンチウム・セシウム群(半減期約30年)は熱源、ガンマ線源として利用する。
超寿命の核種(超ウラン元素群)は高速炉、加速器駆動未臨界炉で中性子や陽子照射などによって核反応を起こさせ、短寿命または非放射性の核種に変換させてしまう(核変換)という放射性核種の環境への負荷低減に結びつく技術の研究開発が日本(OMEGA計画)及び世界主要国で国際協力で進められている。安倍首相は実現に向けての研究開発推進の姿勢を表明している。この群分離・核変換により、最終廃棄物の量は再処理から出る量の約1/5となり、放射性廃棄物の処分場所が少なくて済む。また、半減期を短くすることにより、数万年を要する放射線の減衰を数百年で安全なレベルに減衰させることができる。
3.2宇宙エレベータを利用して放射性廃棄物を宇宙に放出
ロケットを使用した放射性廃棄物の宇宙処分は過去にも検討されたが、ロケットの信頼性が問題視されて取りやめになった。近年、宇宙エレベータの実現性が高くなり、「放射性廃棄物の宇宙への放出」構想が発表されている。実現に向けての課題も多く、実現時期は不明確であるが、核変換による廃棄物の半減期短縮や冷却にも数十年を要することから50年~100年後に実現できればよいと考える。
3.2.1大林組の宇宙エレベータ建設構想
宇宙エレベータはロシアや米国で開発・研究が進められてきたが、日本では昨年2月に大林組が高さ96,000km の宇宙エレベータの建設構想を発表している。高度36,000km の静止軌道(地球自転による遠心力と重力が釣り合って上空に静止)上のステーションに大型の太陽電池パネルを取り付けて発電電力を地上に送電する。また、静止軌道ステーションにターミナル駅を造り、30人乗りのエレベータ籠がエレベータ軌道を伝って時速200km で片道7日かけて地上とターミナル駅間を往復する。完成すれば貨物1kg あたり5千円~1万円(ロケットの1/100~1/200)で宇宙に物体を送れる。2050年完成予定、総工費10兆円。
3.2.2宇宙エレベータを利用して放射性廃棄物を宇宙に放出
物体を地球の重力圏外へ脱出させる投射機としての機能を持つ宇宙エレベータを利用して放射性廃棄物を収容したキャニスターを宇宙空間に放出するという処分方法の開発研究が進められている。宇宙エレベータ協会は太陽系外への脱出コース、天然の核融合炉である太陽への突入コースに乗せる次のような提案を発表している。
(1)太陽系外への放出:高度165000km に廃棄物放出台をもつ宇宙エレベータを建設する。この放出台から地球の公転方向に放出されたキャニスターの速度は12.49km/sec となる。これに地球の公転軌道速度29.78km/sec が加わり、速度42.27km/sec となって太陽系からの脱出速度(42.12km/sec)を超える。
(2)太陽への投入:地球から太陽に物体を投入するには公転軌道速度を2.3km/sec まで落とさなければならないのでエレベータの静止軌道(高度36000km)に直径8.6km の回転円板(円周に沿ってキャニスターを配置)を設け、加速して1回転/秒(円板の円周速度27.5km/秒)に達したら公転と逆方向にキャニスターを放出する。
おわりに
昭和32 年三菱電機入社OB 会(神武会)有志で原発の安全化と核廃棄物の処分に関する技術調査・検討を行ない、100年先の原子力エネルギー利用について提案、書籍「原発の安全性と核廃棄物の処理」を出版した。本文はこの内容を参考にして作成したものである。
以上
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